郷土の料理の本当の味と価値は、ふるさとを一度離れてみないと分からないのと同じように、生まれ育った土地がいかに豊かな自然に囲まれていたのかを知ったのは、郷里を離れてしばらく経ってからのことだった。
中でも、年々そこを通るたびに貴重さが増して見えるのが、月山山麓に広がるブナの大原生林。
実家から車で約1時間とそれほど遠くない場所にありながら、子供のころはそんな「足」もなく、ブナを今ほど特別視する風潮も無かったので、当時はその存在すら知らなかった。
今でも山形道から鶴岡市に抜ける道が月山の峠を越えるあたり、前後左右、近くにも遠くにも見事なブナ林を目にすることになる。
今回は時間に少し余裕があったので、途中、湯殿山へ分かれる道に逸れ、そこからさらに「六十里越」と呼ばれる旧道を走って(狭い道だが、舗装されていて走りやすい)、そのふところに入ってみた。
保水力が高いといわれるブナ林は、見るからに自然の豊かさを感じさせてくれる。大きなブナは賢者のような風格があり、若いブナは張りのある白い幹を真っ直ぐ上に伸ばす。
白神山地などよりは規模が小さいのかも知れないが、見渡す限りの山はほぼブナ林に覆われているように見える。
旧道でときどき地元の軽トラックなどとすれ違うのは、キノコ採りだろうか。
道はどんどん下って谷底に降り、そこに田麦俣の集落があった。昨夏も帰省の折に立ち寄った多層民家を写真に収め、国道に戻った。