吉村順三が設計した軽井沢の建物のなかでも有名なのものの一つが、南ヶ丘にある音楽研修施設のハーモニーハウス。
日本の子どもたちに本格的なオーケストラ音楽を鑑賞させようと、戦前から啓蒙・教育活動を続けたエロイーズ・カニングハム(1899~2000)が、私財を投じて1970年代に建てた。現在はカニングハムの活動を受け継ぐ(社)青少年音楽協会が管理運営を行い、音楽合宿や研修用に一般にも貸し出しているが、夏期を除けば利用率はいま一つのようだ。
入口からは建物の全容はわからず、一見、平屋建ての落ち着いた保養施設のようにも見える。
ところが中に入ると、そこには思いがけず広い吹き抜けの空間が広がっていた。
建物は、ゆるい傾斜地を利用したとても面白い構造になっている。
入り口階にホールがあるのだが、敷地はゆるやかに下っており、ホール奥は下が食堂(ホールからは見えない)上がラウンジ(ホールからは中2階のように見える=下の写真)の2層となって南側の庭に面する。つまり、庭から見ると1階が食堂、2階がラウンジの建物のように見えて、ホールは見えない。
食堂とラウンジに通じる廊下は階段ではなく、それぞれスロープ式になっており、これは吉村の師レイモンドの「夏の家」でも見られるアイデアだ(車椅子でも進める利点も考慮した?)。
東側に張り出した平屋の屋根が、砂利を敷き詰めて雑草を茂らせた「草屋根」になっていた(上の写真の右側平屋の屋根に雑草が見える)。
ホールのある建物の西側には宿泊棟がある。壁はすべてベニヤ合板だ。
敷地の西側には、やはり吉村順三が設計したカニングハムの別荘「メロディハウス」が、雑草に埋もれるように建っていた。愛宕山にあったそれまでの別荘と土地を売り払って、この地に建てたもの。
愛宕山の別荘も吉村の設計で、今は元NHKアナウンサーで文筆家の下重暁子氏の別荘になっている(下の写真は、雑誌クロワッサンから)。
カニングハムの本宅は東京の港区にあり、女史が生前親交のあったアントニン・レイモンドが設計したものとして有名だ(下の写真は青少年音楽協会のHPから)。